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世界で最も幸せなミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』

『ドレミの歌』、『私のお気に入り』、『エーデルワイス』など、全編にわたって数々の名曲が綴られる映画史の残る名作ミュージカル映画です。アカデミー賞において、作品賞、監督賞、編集賞、編曲賞、録音賞の5部門でオスカーを獲得しました。

学校関係で教材として試写されることも多い作品ですが、音楽、歴史、美しい風景、人間愛などを吸収しやすい小学校で鑑賞する機会を多くして欲しい作品です。

ため息が出るほど美しいアルプスの風景をバックに名曲を聴いていると、これだけで十分癒やされます。それに加えて、激動の歴史を背景にスローな恋愛模様を描くことで、何世代も受け継がれるべく名作となりました。

辛いこと、悲しいことがあったとき、この映画を観れば、すべて忘れてしまいそうな、明るく元気の出る作品ですので、ご家族そろって楽しんでいただきたいです。

派手なアクションや、特撮CGが素晴らしいSF映画もいいけれど、ときには心が元気になるこのような映画もおすすめです。ミュージカル映画ってやっぱりいいなぁ、と思わせる作品です。

監督は『ウエストサイド物語』のロバート・ワイズ監督。『ウエストサイド物語』と本作で、ともにアカデミー賞作品賞と監督賞を受賞しています。その後も、『アンドロメダ』、『スタートレック』などのSFなども手がけたハリウッドで最も素晴らしい監督の一人です。

主演は、もともとは舞台女優だったのですが、ウォルト・ディズニーがなんとしてでも『メリーポピンズ』で、起用したかったといわれるジュリー・アンドリュース。映画デビューでいきなりアカデミー賞主演女優賞を獲得した実力派女優です。

舞台は、1938年のオーストリア、ザルツブルク。トラップ家は、7人の子供たちに対して古風で厳格な教育方針を掲げています。父親のトラップは、数年前に妻を亡くしてしまいました。そのため子供たちの面倒をみるために家庭教師を雇うのですが、元気いっぱいの子供たちはやんちゃ盛りで、どの家庭教師も長続きしません。

そこに修道院の院長の命を受けて、修道女のマリアが家庭教師としてやってきます。早々にカエルのいたずらを受けたりしますが、マリアはそれを歓迎の意として受け止めるのでした。
彼女の温かい人柄、音楽や歌を歌うことの素晴らしさを伝えるなど、子供たちはすぐにマリアのことが好きになっていきます。しかし、父親のトラップはマリアの教育姿勢に納得がいかずに、衝突が絶えません。

ある日、マリアは子供たちが軍服のような服を着ていることを不憫に思い、部屋のカーテンを使って遊び着を作り、山に遠足に出かけます。そこで、子供たちがいたずらをする理由をたずねます。子供たちは父親の気を引きたかったからだったのです。

そこでマリアは、子供たちに歌を歌って父親の気を引くことをすすめるのですが、子供たちは知っている歌がないことを知って驚くのでした。マリアは子供たちにドレミの階名を教え始めるのでした。

ところが、マリアは自分がトラップに惹かれていることに気づくのでした。思いを抱いたまま悩んでいるマリアでしたが、トラップの再婚話が持ち上がり、心の内を伝えることができないまま、修道院に戻ります。

3時間という上映時間ながら、それを感じさせない素晴らしい脚本で、最高のミュージカル映画といって過言はありません。

土砂降りの中、ジーン・ケリーが歌って踊る『雨に唄えば』

この映画自体を観ていなくても、大雨の中で黄色いカッパを着てダンスをするシーンは、観たことがあるのではないでしょうか。『トップ・ハット』、『巴里のアメリカ人』などの代表的ミュージカル映画の傑作の一つがこの『雨に唄えば』です。

映画界の時代の変遷を描いたコミカルなミュージカル映画で、ハリウッド映画を代表する名作の一つです。特に大雨の中、主人公のジーン・ケリーがタップダンスを踊るシーンは、映画史に残る名シーンとして今でも色あせることがありません。

アメリカ映画協会が選んだミュージカル映画ベスト第1位に輝いています。主題歌はアメリカ映画主題歌第3位に選ばれており、映画そのものはアメリカ映画ベスト100において、第10位という輝かしい結果を残しています。文句なしの名作といえるでしょう。

経営学者のジョーン・マルケスは、この映画を鑑賞し、「雨を嫌うか、雨の中で踊るか、私たちは選択することができる」とし、困難な時期をすばらしい経験に変えることが人生において大切な技術であると説いています。

映画監督のメル・ブルックスは「天国のように素晴らしい。ミュージカル映画史上最高作品だ」と絶賛しており、この映画がいかに素晴らしく、後生に影響を与えているかわかります。その証拠に、映画『ザッツ・エンターテインメント』の冒頭では、この曲が紹介されるほどです。MGMミュージカル作品の象徴的な曲になっています。

主演は『踊る大紐育』、『巴里のアメリカ人』など多くのMGM作品で主演を務め、ハリウッド映画の黄金時代を築いたジーン・ケリーです。1952年には、アカデミー賞名誉賞を受賞しています。(同年には黒澤明監督も名誉賞を受賞しています。)

映画界はサイレント映画が花盛りの1920年代はアメリカそのものにとっても黄金期であった。ジャズやミュージカルなど、20世紀を代表する文化が生まれた時期でもあります。しかし、テクノロジーの進化はいつの時代にも文化にも反映します。

俳優のドン(ジーン・ケリー)と女優のリナ(ジーン・ヘイゲン)は、映画界のドル箱スターでした。やがて、世界で初のトーキー映画『ジャズ・シンガー』が大成功を収めると、ハリウッドにも当然のようにトーキーの波が押し寄せます。

そこで映画製作会社は、ドンとリナを主演にした作りかけのサイレント映画を無理矢理トーキー映画にすることにします。ところがリナの声があまりにイメージとかけ離れていて、試写会は失敗に終わります。そこで、ドンの親友コズモが、リナの声を別人キャシーの声に吹き替えるアイディアを出したのです。

しかし、それを知ったリナは嫉妬と怒りでキャシーを表舞台に出られないように契約させます。やがて映画が完成し、試写会が催されます。ドンとリナの歌声に感動した観客は拍手喝采を惜しげもなく浴びせるのですが、思わずリナは自らの声でスピーチをしてしまいます。

あまりの声の違いに観客からリナへ、この場で歌を歌うように迫られ、リナはキャシーをカーテンの背後に隠して、観客の前で口パクで歌い始めるのですが・・・。

大手デパートなどでは、雨が降り出すと『雨に唄えば』のBGMを流すところもあるそうです。もしかしたら、日常で耳にしているかもしれませんね。

幸福に必要なのは、その時その時の小さな愛情『シェルブールの雨傘』

1964年製作のフランス映画、ジャック・ドゥミ監督、ミシェル・ルグランが音楽を担当しました。カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しています。この映画もミュージカル映画を語る上では、外すことのできないスゴイ作品です。

題名を見ても、スゴイ?とは思わないですよね。内容も男女の恋愛を謳った、よくある恋愛ストーリーです。では、なにがスゴイのでしょう?実はこの映画セリフが全くないのです。一般的なミュージカル映画とは、演技の中に音楽を挿入し、歌を奏でます。

しかし、本作は全編が音楽のみの完全なミュージカルです。出演者も多く、エキストラもたくさん使っていますが、全員セリフはありません。すべて歌と音楽で表現します。だから、キャストは歌を歌うことはプロではないので、すべて吹き替えとなっています。

色とりどりの傘をもつ人々を俯瞰的に見下ろすオープニング・シーンは幻想的です。様々なパステル調の色華やかな傘が人々の個性を表しているようで、この映画はきっと恋人たちの幸せを描いた素敵な恋愛ドラマなのだろう、と思わせます。

しかし、その内容は悲しく重いものとなっています。相思相愛の傘屋の娘と修理工の若者が、戦争によって引き裂かれていく悲劇をミュージカルで描きました。思えば、オープニングのシーンでこの物語の方向性を訴えていたのかも知れません。

一見、色鮮やかな美しい傘は、思い思いの方向に進みます。実はこれは、これから起こる登場人物の人生を案じているではないでしょうか。

とにかく全体に美しい映画です。もう50年以上も前に製作された作品ですが、色調の使い方が色鮮やかで、悲しい場面でも、劇中に登場するものすべてが色鮮やかなのです。

主演のキュートなジュヌヴィエーヴ・エムリを演じるのは、子役時代から映画に出演していたカトリーヌ・ドヌーヴ。本作で世界的大スターの座をつかむことになります。とにかく可愛いカトリーヌ・ドヌーヴが歌って踊る魅力にあふれた姿に心酔することでしょう。

舞台は、フランス北西部の小さな港町シェルブール。傘屋の娘ジュヌヴィエーヴは稼ぎが少なく貧しい家庭に育ちます。それでも、自動車修理工のギイに恋をし、幸せの真っただ中です。しばらくは、若い二人の甘い恋の時間が描かれます。

当然のように二人は永遠の愛を誓い合います。しかし、そんなギイへの徴集礼状が届くのです。ギイは兵役に行かなければなりません。二人は、ギイの出兵前夜に結ばれます。しかし、誓った永遠の愛も、日々の生活の中では色あせてゆきます。

いつしか二人は時代の波に翻弄され、別々の人生を歩むことになります。それから数年後二人は再会します。そして、ラスト・シーンの「幸せ」という言葉の男女の意味に取り合いも深く考えさせられます。

ジャック・ドゥミ監督の「幸せ」とは、永遠の愛ではなく、まさにその時、その時に生まれる小さな愛情のことであり、空から降ってくるような小さな雨粒のようなものなのかもしれません。

ダンス!音楽!永遠の青春!『ウエスト・サイド物語』

キャッチコピーは、『ダンス、音楽、永遠の青春・・・すべてのエンターテインメントの歴史がここに!』1961年の作品ですが、どの時代に観ても若い人から感銘を受けることができる有名なミュージカル映画です。アカデミー賞では、作品賞、監督賞をはじめ10部門を受賞した正真正銘の最高傑作です。

日本においても、本作は大ヒットし、『ベン・ハー』を越える記録的興行成績を残し、配給収入は13億円となりました。劇中で『トゥナイト』、『アメリカ』、『マンボ』、『クール』、『マリア』など、歌われた曲も多くサウンドトラック・アルバムが世界中でヒットしました。今でも愛され続ける名曲ばかりです。

監督はロバート・ワイズとジェローム・ロビンスの両監督。ロバート・ワイズは、その後『サウンド・オブ・ミュージック』でも、アカデミー賞監督賞を受賞しています。

主演は、ジェームズ・ディーンの『理由なき反抗』で、アカデミー賞助演女優賞を受賞したナタリー・ウッド。本作『ウエスト・サイド物語』で大スターの仲間入りをしました。

そして、もう一人の主演はリチャード・ベイマーです。しかし、彼は本作の後は、作品にめぐまれず目立った活躍はしておりませんが、1990年にテレビドラマ・シリーズ『ツインピークス』で復帰したときに、すっかり風格ある姿でファンを喜ばせました。

日本では、主演の二人よりも助演のジョージ・チャキリスの方が人気が爆発しました。親日家でもあり、日本でのドラマ出演や舞台出演などもありました。甘いマスクが日本の女性には好みだったようですね。彼は、本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞しています。

移民による人種の差別問題に重点を置き、縄張り争いを行う凶暴化する若者たちの世相など、当時のアメリカが抱えていた社会問題をミュージカル映画で描いた問題作です。この後の若者たちのグループ映画に多大に影響を与えました。

アメリカ、ニューヨークのウエスト・サイドには白人系のジェット団とプエルトリコ系のシャーク団という不良少年の二つのグループは、屋上運動場の占有権を巡って敵対関係にあり、常にお互いの行動を監視し合い、一触即発の危険な空気となっています。

そんな中、中立地帯のダンス・ホールでマリアとトニーの二人は出会います。そして、ダンス・パーティーでお互いが惹かれ合った。しかし、マリアはシャーク団のリーダー、ベルナルドの妹、対してトニーはジェット団の前リーダーであり、現リーダー、リフの親友だったのです。二人の選んだ愛は危険なものだったのです。

そして、とうとう両グループは、衝突することになってしまいます。マリアは争いを止めようとします。トニーが両者の間に割って入るのですが、興奮している両者はトニーに耳を貸すことはありません。両グループは、リーダー同士の対決を始めます。

決闘の末、ジェット団リーダー、リフがベルナルドに刺され殺されてしまいます。親友リフを殺されたことで、今度はトニーがベルナルドを殺してしまいます。トニーは、逃亡することにしますが、シャーク団と警察に追われます。

正直、結局みんなが傷ついてしまって終わりを迎えるという、悲劇のミュージカル映画です。

この映画のテーマは戦い、夢、希望、愛『レ・ミゼラブル』

2012年に製作されたミュージカル映画『レ・ミゼラブル』は、今までのミュージカル映画とは異なる斬新な撮影方法をとっています。監督は『英国王のスピーチ』でアカデミー賞監督賞を受賞したトム・フーパーです。

では、どのような撮影法なのでしょう。一般的なミュージカル映画とは、まず撮影をしてから、声や音楽をあとから乗せる方法をとります。しかし、本作は撮影時歌った声をそのまま利用しています。よって、役者の感情がそのまま伝わるのです。

きれいな歌声を乗せるのではなく、その現場と歌っている声が、そのまま本番として使われます。当然、吹き替えもできません。役者にとっては、まるで舞台で演じている緊張感があるはずです。

その緊張する撮影方法で臨んだのは、驚くべき俳優陣でした。映画『X-MEN』シリーズのヒュー・ジャックマンが主演のジャン・バルジャンを演じます。アクション俳優のイメージが強いので、配役に選ばれたときは驚きましたが、彼はミュージカル舞台も出演しているのですね。

そして、同じくアクション俳優のイメージが強い、ラッセル・クロウが、ジャン・バルジャンを追い詰めるジャベール警部の役を務めます。彼もミュージカルのイメージはないのですが、若い頃はロックバンドのメンバーだったそうです。

娘をジャン・バルジャンに託すフォンテーヌの役に、今ハリウッドで最も売れている女優、『プリティ・プリンセス』、『マイ・インターン』のアン・ハサウェイが務めます。

この豪華俳優陣が、何度も映画化、舞台化、さらにアニメ化された名作『レ・ミゼラブル』をつくりあげます。過去のどの作品よりも、最も感動的な『レ・ミゼラブル』となったできあがりとなりました。

19世紀のフランス、民主化が終わり再び王政が復活しようとしています。ジャン・バルジャンは幼い妹のためにパンを盗んで19年投獄されてしまいます。しかし、ジャン・バルジャンの身分証には《危険人物》の烙印が押されてしまい、仕事をすることさえできません。

ある日、教会に前で倒れていると、司教から救われます。しかし、人の優しさを知らないジャンは、教会の食器を盗んでしまいます。再び逮捕されたジャンだったが、司教は「食器は彼に与えたものだ」と警察に言うのです。

ジャンは己の恥を知り、生まれ変わることを心に決めたのです。こうして1823年、ジャンは貧困者の味方である市長になるのでした。しかし、新しく警察署長になったジャベールはジャンの過去に疑念を抱くことになります。

そのころ、ジャンが経営する工場で働く貧しい娘ファンテーヌは、職場でのある騒動で解雇されてしまいます。ファンテーヌは、からかった男を突き飛ばし、警察に逮捕されそうになったとき、ジャンがかばうのです。

ジャンは、危険を察しして、フォンテーヌの娘コゼットを連れてパリに逃げることにします。やがて、二人は激動のフランスの歴史に飲まれることになります。ラストは涙があふれ出します。

『シカゴ』のロブ・マーシャル監督が再び仕掛けた『NINE』

映画初監督で、アカデミー賞作品賞を受賞したロブ・マーシャル監督が、『シカゴ』のスタッフを集結して挑んだ超豪華キャストで贈るミュージカル映画です。

スランプに陥ってしまった映画監督と彼を取り巻く多くの美しい女性たちへの愛に対する現実のプレッシャーと幻想の世界を描いた作品です。そして、出演陣はまさに豪華です。

主演の映画監督グイド・コンティーニを演じるのは、アカデミー賞主演男優賞を3回も受賞したダニエル・デイ・ルイス。3回も同賞を受賞したのは史上、彼だけです。この人が主演するというだけで、この映画の価値がいかなるものか分かります。

映画監督グイドの妻ルイザに『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』で、アカデミー賞主演女優賞を受賞したマリオン・コティヤール。『TAXi』シリーズ、『ダークナイト・ライジング』などのアクション映画にも登場します。驚くほど力強い歌声を聞かせてくれます。

グイドの愛人カルラには、『オール・アバウト・マイ・マザー』、『バニラ・スカイ』のペネロペ・クルス。彼女も『それでも恋するバルセロナ』でアカデミー賞助演女優賞を受賞したオスカー女優です。

そして、『ラビット・ホール』、『アザーズ』のニコール・キッドマン。『ムーラン・ルージュ』に続いて、2回目のミュージカル映画出演となりますが、同作にくらべ本作はシリアスな役柄を演じています。やはり、彼女も『めぐり逢う時間たち』でアカデミー賞主演女優賞を受賞しています。

グイドの友人のデザイナー役で、『007』シリーズのM役で有名なジュディ・デンチも華麗なステップと力強い歌声を披露してくれます。彼女もまた『恋におちたシェイクスピア』で、アカデミー賞助演女優賞を受賞したオスカー女優です。

グイドの母親役でソフィア・ローレンが登場するのにも驚かされました。登場時間は短いものの、大女優の存在感、風格があります。この方も『ふたりの女』で、アカデミー賞主演女優賞を受賞したオスカー女優です。

メイン・キャストがすべてオスカー俳優を集めることができたというのも、ロブ・マーシャル監督の前作『シカゴ』がいかに素晴らしく、本作が期待されていたことが伺えます。

映画監督のグイドは、新作映画の制作に行き詰まっています。タイトルと主演女優は決まっているものの脚本は進まず、記者会見中に逃げ出してしまいます。ホテルに逃げたグイドは愛人のカルラを迎え入れるのだが、関係者に見つかり、そこで撮影することになります。

撮影所では、妻のイルザとカルラが鉢合わせしてしまい、ビジネスとプライベートの狭間で悩むグイドには昔の女性たちの幻影たちが次々と現れます。やがて、妻は彼の元を去り、妻を失ったグイドは新作映画の制作を断念します。そして、2年間抜け殻のような彼の元に昔ながらの友人のデザイナー、リリーが訪れます。

ラスト・シーン、グイドが静かに口にします・・・「アクション」。その映画のタイトルは『NINE』、思わず鳥肌が立つようなシーンです。エンド・タイトルで撮影中の練習風景が映し出され、俳優陣の必死な姿を観ることができるので、最後までお楽しみください。

ミュージカル映画を再び世に知らしめた『シカゴ』

2000年前後、アメリカ映画界はCGの台頭で、SFや超大作が好まれるようになり、ミュージカル映画ヒットしないという風潮にありました。しかし、それを覆した傑作が、この『シカゴ』です。さらにこの作品は、アカデミー賞作品賞、ゴールデングローブ賞作品賞を受賞するなど、数々の賞を総なめしています。

メイン・キャストはレニー・ゼルウィガー、リチャード・ギア、キャサリン・セタ・ジョーンズの豪華トリプル主演です。監督は、その後も『NINE』で、やはり好評を博したロブ・マーシャルが務めます。

『ブリジット・ジョーンズの日記』で、アメリカ人でありながら、イギリス英語をマスターしてアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたレニー・ゼルウィガーは、本作でもアカデミー賞主演女優賞でノミネートされています。

『真実の行方』、『愛と青春の旅立ち』のリチャード・ギアもタップ・ダンスを披露してくれますが、演技がいいだけに、正直違和感を覚えます。しかし、調べてみると彼は過去にミュージカル経験があるとのことでした。

リチャード・ギアは、本作では、ゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞しています。実は非常に多くの作品に出ているのですが、賞レースには縁がなく、賞を受賞したのは本作だけなのです。

そして、主演を喰ってしまったのが、『マスク・オブ・ゾロ』、『トラフィック』のキャサリン・セタ・ジョーンズです。圧倒的な美貌と自信に満ちたセクシーな様がこの映画を彼女のものにしています。本作ではアカデミー賞助演女優賞を受賞しました。

ストーリーは、ミュージカルにはあまり観ないヘヴィな内容となっているのですが、なぜか軽快なコミカルな展開をします。演者の吹き替えなしの歌とダンスも元気を与えられます。正直、とても面白い映画です。

1920年代前半のシカゴ、スターになることを夢見るロキシー・ハート(レニー・ゼルウィガー)は、歌手ヴェルマ・ケリー(キャサリン・セタ・ジョーンズ)に憧れていました。しかし、ヴェルマは浮気した夫と自分の妹を殺してしまいます。翌日、何食わぬ顔でショーに出演するヴェルマの元に警察がやってきて、逮捕されます。

それかひと月後、ロキシーは愛人との口論末、相手を撃ち殺してしまいます。すぐに逮捕され、留置場に送られます。ところが、留置場で憧れのヴェルマに出会うのです。ヴェルマには、弁護士ビリー(リチャード・ギア)がついています。

ロキシーは、ヴェルマと仲良くなろうとしますが、ヴェルマはそれを拒否します。ところが、ビリーがロキシーの弁護につき、マスコミ報道を捜査し、一夜にしてスターになるのです。ヴェルマはロキシーに二人でデュエットを組むことを提案します。

しかし、今度はロキシーがそれを拒否し、二人はライバル関係となっていきます。その後、話は二転三転していくのですが、殺人に刑務所など、重き内容となっているのですが、不思議にこれが妙に軽快なコミカルに展開するのです。

見終わってみると、キャサリン・セタ・ジョーンズのヒールぶりのイメージが強く残る映画でした。

この声で、夢への扉を開けてみせる!『バーレスク』

歌手になることを夢見る若い女性が、多くの障害を乗り越え、その夢を叶えていくサクセス・ストーリーを描いたミュージカル映画です。年の差の女性コンビがアメリカン・ドリームを勝ち取る様は、観る者すべてに元気を与えてくれます。

主演を務めるのは、本物の世界的ミュージシャン、クリスティーナ・アギレラとオスカー女優のシェールによるW主演となります。ちなみにこの二人の年の差コンビは、クリスティーナ・アギレラが1980年生まれ、シェールが1946年生まれです。

クリスティーナ・アギレラは、オーディション番組の審査員を務めるなど、その歌唱力は抜群です。さすがは、世界的ミュージシャンです。劇中、彼女が注目を浴びるきっかけとなるアカペラのシーンは鳥肌が立つほどです。

もう一人の主演、シェールはオープニングで見事なスタイルのタイツ姿で魅了してくれます。ちなみに撮影時は、65歳・・・。正直、驚きです。これほどきれいな65歳にはお目に掛かったことはありません。ハリウッド女優の凄さに圧倒されます。彼女は、1987年『月の輝く夜に』で、アカデミー賞主演女優賞を獲得しています。

この年の差Wヒロインの描くサクセス・ストーリーです。歌手を夢見る若いアリは、アイオワの田舎町から、チャンスを得るためにロサンゼルス出てきます。仕事を探し途方に暮れているとき、テスという女性が経営する《バーレスク・ラウンジ》というクラブを見つけます。

アリは、毎晩セクシーなダンサーがその華やかな舞台に感激し、半ば無理矢理ウェイトレスとして働くことになります。そして、働きながら舞台に上がるチャンスを狙うことになります。しかし、実際は《バーレスク》では、ショーとは名ばかりで、歌手は口パクばかりで、お客もたいして歌手には興味を持っていなかったのです。

ある日、ダンサーの一人が妊娠して、その代役としてアリが舞台に上がるチャンスを得ることになります。さらに、健気なアリは、問題の多いニッキに変わってソロで踊ることになります。舞台裏では、舞台に上がるために激しい争いが繰り広げられていたのです。

起こったニッキは、アリの公演中に、BGMの音源コードをスピーカーから抜き、マイクの音声を切ってしまいます。アリは当然、困惑して舞台上で固まってしまいます。慌てたスタッフは、ショーを中断させるためにカーテンを下げ始めます。しかし、それが逆に大きなチャンスをつかむことになります。

すると、アリは意を決してマイクに頼ることなく、アカペラで歌い始めます。アリの歌声は、ホールに響き渡り、店の客はもちろん、スタッフたちも唖然とします(当然、映画を観ているアナタも)。公演は大成功を収め、それからというもの、テスの指示で、アリがメインとなり舞台公演が続きます。

アリのパワフルなステージは瞬く間に評判となり、マスコミにも取り上げられるようになります。それからというものバーレスクは連日客が押し寄せ、大盛況となりのですが・・・。実はバーレスクにはある問題を抱えていて、存続の危機にあったのです。

後半のストーリーが頭に残らないほどのクリスティーナ・アギレラの歌唱力に圧倒されます。

まるでファンタジー映画のようなノリのいい『ムーラン・ルージュ』

1899年のフランス、パリのモンマルトル。その街には、ナイトクラブ《ムーラン・ルージュ》がある。毎夜、毎夜、多くの者が集まり酒を飲み明かし、歌い、踊り回ります。その《ムーラン・ルージュ》を舞台に、若き貧乏作家と女優を目指す踊り子の恋愛ミュージカル映画です。

抱いていたイメージとは、まるで違っていた派手な演出に驚かされました。そして、使われている楽曲も、1899年らしくない、ビートルズ、エルトン・ジョン、マドンナなど親しみ深い曲が多いのにも驚かされ、演出の度胸を買います。

ラブストーリーのミュージカルでありながら、その展開はまるでコメディ映画。そして、派手なセット、豪華な衣装。まるで遊園地のアトラクションに載っているスピード感なる映像美です。ちょっと他のミュージカル映画とは異なる感覚を味わうことができます。

主演は『めぐり逢う時間たち』、『ラビット・ホール』のオスカー女優のニコール・キッドマンと『トレインスポッティング』、『スター・ウォーズ』シリーズのユアン・マクレガーのW主演です。この二人の吹き替えなしの歌とダンスを堪能できます。

ニコール・キッドマンは、《ムーラン・ルージュ》で最も売れている踊り子サティーンを体当たりで演じます。その美しさは目を見張ります。そして、可愛くもあり、キュートな面も魅せながら、長けた歌唱力で映画を盛り上げます。

なお、本作でニコール・キッドマンが身につけたネックレスは、1308個ものダイヤモンドを散りばめたもので、3億円の価値があり、映画のために作られたジュエリーとしては史上最高額です。劇中も何度も「女はダイヤモンドが好物」という歌詞が出てきますが、本物を使うとは驚きです。

ユアン・マクレガー演じる貧乏作家クリスチャンの役は名だたる俳優がオーディションを受けたらしく、歌唱力を買われユアン・マクレガーが選ばれたそうです。確かに、劇中の彼の歌は思っていた以上に上手です。映画が始まってすぐ、彼の口から『サウンド・オブ・ミュージック』が聞くことができたのもびっくりです。

また、ジョン・レグイザモが小さな男の役を演じるのですが、はじめ観たとき、彼とは分かったのですが、それにしても小さい?別人?と思ってしまいますが、撮影中はずっと膝を曲げての撮影で、膝から下はCG処理をしていたそうです。そして、その過酷な撮影のため、撮影後足の感覚を失い、治療を受けたそうです。

イギリスの若者クリスチャンは、愛と自由の物語を書く作家になるため華の都パリで住むことにします。しかし、自分には恋愛経験がないため、物語を書くことができません。そんなとき、部屋の天井を突き破って大男が落ちてきます。

二階には、《ムーラン・ルージュ》でショーを行う芸人たちの練習場があったのです。いつの間にか、その連中に巻き込まれることになってしまったクリスチャンは、早々と《ムーラン・ルージュ》で出向くことになり、手違いでクラブ一の花形スター、サティーンと二人きりで会う手配になってしまい、二人は恋に落ちていくのです。

目が疲れるほどの派手な映像とノリのいい音楽で、19世紀のパリの社交場を描く異色ミュージカル映画をご堪能ください。

ドリーメッツに自分の未来を託すミュージカル『ドリームガールズ』

黒人女性3人組グループ《スプリームス》のメンバー、メアリー・ウィルソンの自伝 ” Dreamgirls : My Life As a Supreme ” がブロードウェイ・ミュージカルで上演され、それを映画化した作品です。

豪華な共演陣が話題になった、3人の女性ボーカリストを描くサクセス・ストーリー。そして、まだ人種問題が残る1960年代の白人社会の中で夢を追い続ける黒人ミュージシャンの栄光と挫折を描いたエンターテインメント、ミュージカル映画です。

主演の3人の女性ボーカリスト《ドリームズ》、彼女たちのマネージャー、カーティス・テイラー・ジュニア。演じるのは、『コラテラル』、『マイアミ・バイス』、『ジャンゴ 繋がれざる者』で大俳優の風格が出てきたジェイミー・フォックス。歌う場面は、多くはありませんが、渋い歌声を披露してくれます。

彼は、2004年には、『Ray』でレイ・チャールズを演じてアカデミー賞主演男優賞を受賞し、オスカー俳優の仲間入りを果たしました。同時に英国アカデミー賞主演男優賞、ゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞しています。

そして、ビヨンセが女性ボーカリストのメンバーの一人として大活躍します。この役作りのために半年間の食事制限をして、10キロのダイエットをして撮影に挑みました。その甲斐もあり、本作でゴールデングローブ賞主演女優賞にノミネートされました。

その他の出演陣も豪華です。映画の前半で《ドリームズ》をバックにカリスマ的スター、ジェームズ・サンダー・アーリーを演じるのは、コメディ映画で有名なエディ・マーフィーです。

さらに、『リーサル・ウェポン』シリーズ、『SAW』のダニー・グローヴァーが、ジェームズ・サンダー・アーリーのマネージャー役で大俳優の貫禄を魅せてくれます。

劇中の当初は、グループのリーダー的存在だったエフィー・ホワイト役のジェニファー・ハドソンは、映画デビュー作だったのですが、その圧倒的な歌唱力でビヨンセを喰ったと話題となり、ゴールデングローブ賞助演女優賞、アカデミー賞助演女優賞を獲得しました。

1960年代、車の街デトロイトが舞台です。黒人女性3人グループ《ドリーメッツ》は、ライブハウスのオーディションに臨みますが、失敗します。しかし、彼女たちの実力に目を留めたのが、中古車販売を営むカーティス。彼は、その傍らで、芸能プロデュース業をしていたのです。

カーティスは、大物ミュージシャン、ジミー・サンダー・アーリーのバックコーラスとして、彼女たちを売り出すことになり、ジミーのバックコーラスとしてツアーに参加することになります。

しかし、その過程は順風満帆なものではありません。やがて、グループは、牽引役だったエフィーから、美貌のあるディーナ(ビヨンセ)を中心に活動スタイルを変えていくことになります。それが、きっかけでエフィーはグループを抜けることになります。

歌が上手いだけでは生きていくことのできないショー・ビジネス。前半では、黒人がショー・ビジネスで成功することの難しさを伝え、後半ではプロモートの必要性、プロデュースの力に頼るしかない現実を伝えます。一見華やかに見えるショー・ビジネスも、その裏は挫折の連続であることをまざまざと描いています。

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