幸福に必要なのは、その時その時の小さな愛情『シェルブールの雨傘』

1964年製作のフランス映画、ジャック・ドゥミ監督、ミシェル・ルグランが音楽を担当しました。カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しています。この映画もミュージカル映画を語る上では、外すことのできないスゴイ作品です。

題名を見ても、スゴイ?とは思わないですよね。内容も男女の恋愛を謳った、よくある恋愛ストーリーです。では、なにがスゴイのでしょう?実はこの映画セリフが全くないのです。一般的なミュージカル映画とは、演技の中に音楽を挿入し、歌を奏でます。

しかし、本作は全編が音楽のみの完全なミュージカルです。出演者も多く、エキストラもたくさん使っていますが、全員セリフはありません。すべて歌と音楽で表現します。だから、キャストは歌を歌うことはプロではないので、すべて吹き替えとなっています。

色とりどりの傘をもつ人々を俯瞰的に見下ろすオープニング・シーンは幻想的です。様々なパステル調の色華やかな傘が人々の個性を表しているようで、この映画はきっと恋人たちの幸せを描いた素敵な恋愛ドラマなのだろう、と思わせます。

しかし、その内容は悲しく重いものとなっています。相思相愛の傘屋の娘と修理工の若者が、戦争によって引き裂かれていく悲劇をミュージカルで描きました。思えば、オープニングのシーンでこの物語の方向性を訴えていたのかも知れません。

一見、色鮮やかな美しい傘は、思い思いの方向に進みます。実はこれは、これから起こる登場人物の人生を案じているではないでしょうか。

とにかく全体に美しい映画です。もう50年以上も前に製作された作品ですが、色調の使い方が色鮮やかで、悲しい場面でも、劇中に登場するものすべてが色鮮やかなのです。

主演のキュートなジュヌヴィエーヴ・エムリを演じるのは、子役時代から映画に出演していたカトリーヌ・ドヌーヴ。本作で世界的大スターの座をつかむことになります。とにかく可愛いカトリーヌ・ドヌーヴが歌って踊る魅力にあふれた姿に心酔することでしょう。

舞台は、フランス北西部の小さな港町シェルブール。傘屋の娘ジュヌヴィエーヴは稼ぎが少なく貧しい家庭に育ちます。それでも、自動車修理工のギイに恋をし、幸せの真っただ中です。しばらくは、若い二人の甘い恋の時間が描かれます。

当然のように二人は永遠の愛を誓い合います。しかし、そんなギイへの徴集礼状が届くのです。ギイは兵役に行かなければなりません。二人は、ギイの出兵前夜に結ばれます。しかし、誓った永遠の愛も、日々の生活の中では色あせてゆきます。

いつしか二人は時代の波に翻弄され、別々の人生を歩むことになります。それから数年後二人は再会します。そして、ラスト・シーンの「幸せ」という言葉の男女の意味に取り合いも深く考えさせられます。

ジャック・ドゥミ監督の「幸せ」とは、永遠の愛ではなく、まさにその時、その時に生まれる小さな愛情のことであり、空から降ってくるような小さな雨粒のようなものなのかもしれません。